【徹底解説】御神輿塗りのガイドライン
✓ このページの内容
- なぜ御神輿を塗るのか?
- 仕上げのいろいろ
- 工程と予算
はじめまして。お祭り男ブログをご覧いただきありがとうございます。
記事を書いている僕はお祭り男1号機ですが、我が社にはお祭り好きが集まっており、 御神輿には特別思い入れがある会社です(笑)
技術的な面で、当社マルスエでは、漆塗りの伝統工芸士が二名在籍しています。
その技術を活かして、平成24年岐阜県大垣祭りの「相生軕」復元・漆塗り工事をはじめ、今まで10台以上の山車・御神輿の塗りに携わってきました。
御神輿の塗りは「外に晒すもの」であること+「動くもの」であることの性質が重なり、少し特殊です。
そんな少し特殊な「山車の漆塗り」について、解説します。
御神輿の漆塗りとは
塗りの必要性
山車を塗るのは、「保護」と「装飾」のためです。
保護
御神輿は基本、木造です。
木は紫外線、気温、湿度、虫、カビなどが原因で劣化します。
その劣化を防ぐために、塗装して保護します。
装飾
「真っ黒で味気ない」のを防ぐために、金箔や蒔絵・変わり塗りなどを施して、装飾性を表現します。
御神輿の塗りの難しさ
御神輿の塗りの難しさは「外に晒すもの」と「動くもの」という両方の性質に対応しなければいけないことです。
外に晒すものであること
内装の塗りに比べて、外装の塗りは下地の耐久性が求められます。
全ての塗料は紫外線には弱く、日に当てないものと比較するとどうしても劣化しやすい特性があります。
- 下地を強化する
- 塗り重ねを増やす
少しでも劣化を予防する工夫を工程に組み込むことが必要です。
動くものであること
また、御神輿は担いで練り歩いたり、お祭りによっては激しい動きをする御神輿もあり、接合部が欠けるトラブルが起きます。
- 接合部はあえて下地を薄くする・落としてしまう
- 日に当たるところは下地を厚く、可動部は薄くする
などの工夫が必要になります。
厚い下地は欠けやすく、薄い下地は劣化しやすい、という矛盾があり、調整が必須です。
いろいろな仕上げ
御神輿の塗りは大きく分けて3パターンです。
- 漆塗り・堅地下地
- 摺漆(すりうるし)
- カシュー・サーフェイサー下地
それぞれの特徴を見ていきましょう。
①漆塗り(堅地)
うるしを一貫して下地〜上塗りまで使用します。
御神輿の塗りの中では、最高級な仕上げになります。
メリット
- 実績(歴史)により品質が証明されている。
- 漆特有の美しさがある。
- 下地が木の収縮に強い。
デメリット
- 高価なこと。
- 紫外線に弱いこと。
- 手作業が多く、工期がかかること。
②摺漆(すりうるし)
木地に漆を吸い込ませ、刷り上げる漆塗り技法です。
主に彫刻・御神輿によっては全体のケヤキ部分を摺漆で仕上げる場合もあります。
メリット
- 実績(歴史)により品質が証明されている。
- 美しい木目を引き立てた独特な雰囲気が出ること。
- 工期が早く、堅地漆に比べて安価であること。
デメリット
- 下地を行わないので、堅地漆に比べると劣化が早いこと。
- 材質や木目が仕上がりに影響すること。
- 漆の特性により、段々と透けてくること。
堅地漆塗り・摺漆は文化財修復に行われる工程=国が認める仕上げなので、コストはかかりますが、一番手堅い仕上げと言えます。
③カシュー塗り
合成樹脂を使って下地をし、カシュー樹脂塗料で仕上げをします。
吹付け塗装することが多いです。
メリット
- 安価であること。
- 合成樹脂の中で、最も質感が漆に近いこと。
- 吹付け塗装の場合は、工期が早いこと。
デメリット
- 漆に比べ、歴史が浅く(約70年)品質の担保が弱いこと。
- 漆塗りの山車と並ぶと、安っぽく見えてしまうこと。
- 下地が科学塗料で、木材との相性は漆に劣ること。
漆塗りに比べて、安価であることが科学塗料の最大のメリットと言えます。
「結局、どの塗料がいいの?」結論:うるしがオススメです。
マルスエでは全ての塗りを行っており、それぞれのメリット・デメリットがあることをご案内するようにしています。
また、塗料は「半製品」とよく言われます。
これは、いくらいい塗料を使っても施工方法が悪ければ、塗料の性能を引き出せないよ、という意味です。
極端に言うと「悪施行された漆」に「丁寧に施行されたウレタン」が、耐久性で勝ってしまうこともありえる、ということです。
特に品質に影響する、下地の工程や、どういう塗料を使うかは確認することをオススメします。
工程と予算
工程
上記は施工工程の一例です。 *塗替え・堅地漆塗り立ての場合の工程表です。
- 施工途中で木地が動いてきた
- 思った下地厚が得られなかった
- 塗膜に満足いかなかった
上記の理由で工程が追加されることもあります。
やはり、塗料は「半製品」で、施行の管理が重要です。 柔軟な対応が、高品質塗装には大切ということですね。
予算
御神輿は共通規格ではないので、一概に価格表を作れないという性質があります。
(本当は価格表があると、計画を立てていただきやすいとは思うのですが…)
なので、仕上げによる違いを解説します。
工程 | 高級 > 安価 |
---|---|
下地 | 堅地 > 泥下地 > サーフェイサー |
塗料 | 漆呂色 > 漆 > カシュー・ウレタン |
変わり塗り | 金梨地・螺鈿など材料費・手間がかかるもの > 梨地・石目塗りなど材料費・手間が少ないもの |
金装飾 | 磨き粉 > 金粉 > 金箔 |
蒔絵 | 磨き蒔絵 > 高蒔絵 > 消粉蒔絵 |
上記の組み合わせにより、価格が決定されます。
記事のまとめ
- 御神輿を塗るのは、「保護」と「装飾」のため。
- 御神輿の特性を掴んで、工程を工夫する。
- 予算はかかるが、堅地漆塗りが一番手堅い仕上げである。
- カシュー・ウレタン塗装のメリットは、安価であること。
- 工程表を確認しよう。
- 予算は組み合わせで決まるので、まずは見積もりをしよう。
上記のとおりです。
お祭りの御神輿は町内の方にとって、大切なお祭りのシンボルです。
同時に、修復予算も町内で積み立てた大切な予算です。
僕自身、お祭り運営に携わる立場なので、身をもって感じることです。
大切な御神輿を塗る際は、大切な町内予算を有意義に使うことが課題になります。
マルスエでは、無料ご相談会を定期的に行っておりますので、以下のお問合せフォームよりぜひご相談ください。